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「昴とアラシ・・・」
香蒔の背筋が冷やりとなり、すぐにじわじわと熱くなる。
「ナースステーションを通りかかったとき、たまたま耳に入った。
なんとかっていう男の正妻の子供が嵐史で、愛人の子供が昴・・・
最初、ドラマの話をしてるんだと思ったけど、お前の名前が出てきたんで思わず立ち聞きした。」
「どんな話だったの・・・」
海は、疲れきったような声で続けた。
「『昴君が香蒔君を 虐 め て いるところを嵐史君が止めに入って、
それが昴君と嵐史君の大喧嘩になってしまって、嵐史君が昴くんの目にスプレーをかけてしまった』」
―――― 僕さ、来週視力を上げる手術を受けるんだ。そしたら、昔みたいにまた遊べるね香蒔
―――――― ねぇ、香蒔。僕の目は治るんだよ。もう君が気に病むことは無いんだ。
座敷 ライラックの花 笑い声 体温
擦り切れてしまったビデオテープのように、途切れ途切れになりながら記憶が再生される。
荒い足音 怒鳴り声 ・・・悲鳴
『貴方は、事故に遭ったのよ』
井原にやさしく額を撫でられ、安堵感に満たされて微笑む自分
視界が暗くなった。
海が肩に腕を回し、抱きしめた形で香蒔の顔を胸に押し付けていた。
香蒔が驚いて身じろぐと、海は「ごめん」と、低く呟いた。
「深追いするな、・・・絶対。分かっただろ、もう」
「・・・うん。海、本当にごめん・・ありがとう」