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その夕、カヲルは通常通り店に出勤した。
更衣室でウミの出勤を確認したが彼の姿は無く、
その代わり、ホワイトボードに乱雑な字で
「日〜水まで出張・ウミ」と書かれたものを見つけた。

「よっカヲル、もう体調はいいのか?」

何もこだわりの無い動作で、光司が肩を寄せた。

「大丈夫です。先日はありがとうございました」
「無茶するなよ、それからこれ、お前の常連さんが見舞いに送ってきたヤツ」

そう言い、大きな紙袋をカヲルの足元に置いた。

「こんなに沢山・・・」

「一番下の箱、矢橋さんから。彼、今夜も来るだろ。ちゃんとお礼しろよ」

「はい」

光司はホワイトボードに自分の予定を書き込んだ後、
ウミのメモに目を留め、目を丸くする。

「ウミのヤツ、大分渋ってたけど結局引き受けたんだな」

「え・・、常連さんのところではないんですか?」

「ああ、オーナーの言いつけでさ、」

カヲルの顔色がサッと青ざめたのを見、光司は小さく吹きだした。

「違う違う、新入りに叩き込み」

「新入り?」

「『未成年も雇うんだろ?』って本人が直接電話を掛けてきたらしい。」

「未成年・・・年は、いくつなんですか?」

「昨日チラッと見かけたけど、お前とタメかひとつ上ぐらいかな。
オーナーってああいうの趣味だっけ。
ウミが突っかかりそうで心配だ。って言ったら、余計面白がっちゃってさ」

「・・・・」

「心配ないだろ。お前の労災を貰いに行ったあともピンピンしてたし。
さ、そろそろ店の掃除に取り掛からないとな」

光司は、言葉を失ったカヲルの頭をくしゃくしゃと撫で、ドアノブをひねる。




   *       *       *



「さすがは、プロなんだね。男に組み敷かれたの初めてだよ。ウミって年いくつ?」

ウミがシャワーを浴びて寝室へ戻ると、
「新入り」は肌蹴た制服のまま、憮然と窓辺で煙草を吸っていた。

「・・・高1」

「へぇ、つい1ヶ月前まで中坊だったんだ。俺、高2な」

並ぶとウミの方が身長は高い。
徐に差し出された缶チューハイを断って、
ウミは濡れた髪のままベッドに寝転がった。

「恋敵と寝るのも面白いね。ウミ、香蒔と何回ヤッたの?」

「忘れた」

「カヲルとは?」

「・・知るか」


「新入り」は肩をすくめ、黒髪を無造作にかきあげると
ウミが受け取らなかった缶チューハイを口に含んだ。



「・・・お前、オーナーの前では、『僕』って言ってたよな」

「うん。俺って大人を前にすると、つい良い子ぶっちゃうんだよね」

「・・・家でも、そうか?」

「あたり。でも今は1人暮らしだから・・ウミの家は、俺ん家と似た感じ?」

「逆、弟と妹しかいない」

「そう、」


それきり、目を背けて窓の外を眺めた。
ハイウエイを、2つの光が並んで通り過ぎてゆく。


「俺、源氏名何にしようかな・・ねぇ、そのまま嵐史でもいいの?」