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ウミの鋭い瞳が嵐史を捉えた。
長いため息を一つついて、ウミは嵐史に向き直る。


「ホント今更っていうか、何度も聞いたけどさ。お前本気なわけ?」

「それはどういう意味で?香蒔のこと?それとも華胥に入ったこと?」

人を喰ったような笑みを浮かべる。
ベッドが軋んだ音を立てる。

乱れたシーツを伸ばし、ウミはベッドに腰掛けた。



「両方。華胥に入って、香蒔を苦しめようとしてる真意は何なわけ?」

「さぁ。君に言ってもわからないだろうしね」

「あいつは、香蒔は過去を探ってる。止めたけど、きっとまだ。なのに何でまたお前が苦しめるようなことするんだよ…!」


声を荒げて、嵐史を睨みつけて。

時折、窓の下をバイクの通り過ぎる音がした。



「まぁ…そうだね。ゲームみたいなものだよ。俺にとってはただの遊び」

「………」

「兄貴にとってはどうかわかんないけど。まだ諦めては無いみたいだしね」

「…お前、昂と会ってるのか?」

「ううん、でも香蒔は昂と会ってる。だから忘れてた俺らのことを調べるようになったんだよ」


先ほど纏った白いシャツを脱ぎ捨てて、嵐史がウミに近寄る。


「お前、何で知ってんだよ。あいつと昂が会ったこと」

「オーナーさんにね。[カヲル]のここ一週間のシフトを見せてもらったんだ。先週金曜の自宅訪問。あれ昂のところだよ。
 大方、我侭言って父さんに呼んでもらったんだろ」

「あいつ…何かあったら言えって言ったのに…」


低い声を発するウミに、前髪をかきあげながら、嵐史が近づく。



「俺はいろんなことを知ってるよ、ウミ。兄貴と俺が香蒔に固執する理由、砂和子さんが香蒔を華胥で働かせ続けている理由。
 そして、俺が華胥の存在を知った理由…。知りたくない?」



頭を押さえるウミを後ろから抱きしめて、耳元で囁く。


「条件は?俺は香蒔を苦しめる側には回らない」

「想像していた通りで凄く嬉しいよ。俺は俺を楽しませてくれるものは大好きだから」

「………」

「―――まぁ、いいや。とりあえず今度は僕に抱かれなよ、海」

「ウミ、だろうが。来いよ、演技で良いなら可愛く啼いてやるから」



外を通るバイクの音にかき消され、夜が更けていく。