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『必ず戻ってくるから』
唇は震えていて、でも俺に向けた瞳は反らさずに強く意志を持ったままで。
昂の元へ行かせまいと必死になっている自分。
目の前にいる愛しい人――――護りたい人。
思わず、口元から笑みが零れた。
「どうしたの?」
「いつもそうだけど、お前こういうときは俺の言うこと聴かないんだよな」
「そんなこと…」
「あるだろ」
傾きかけた陽が2人の影を伸ばす。
校門前から出るバスのエンジン音が響いた。
「なぁ、香蒔。お前俺のことどう思ってんの?」
―――今、言うのは卑怯なのに。
「どうって、大切な人だよ、海は」
「へぇ…。昂よりも?」
―――俺は、何が言いたいんだろう。
「海…?何でそんなこと…っ」
「昂よりも、嵐史よりも。俺が大切なの?香蒔」
―――追いつめている事は判っていた。
「僕はあの2人の事は…っ」
「香蒔」
いつもよりも低い声音で名前を呼べば、
君は身体を震わせて立ちすくむ。
それすらも計算の上で。
「佐和子さんよりも、俺のことが大切?」
―――こんな事を言うつもりじゃなかったのに。
「―――っ!!海…っ」
「…ごめん、――でも俺はっ!」
春の終わりごろとは言え、夕方の風はブレザー越しに体を冷やす。
グランドにいるサッカー部の笛が鳴る。
2人とも、一言も発さなかった。
「…俺は、香蒔が望むなら、何でも捨てれるよ」
ポツリと呟いた言葉にも返事は無くて。
「俺は、陸よりも美空よりも、お前が大切なんだよ!」
―――今、言うのは卑怯なのに。
「海…―――――」
―――――今、言うのは卑怯なのに。卑怯なのに。卑怯なのに。
「好きだ」
息を呑む音がした。
「だから、あいつの所になんか行くな」
絞り出した声は、酷く大きく響いた気がした。