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無機質な通話終了の音が耳に張り付いている。
『たまには頼れよ』と言う台詞が頭の中をぐるぐると回った。


「何してんの?早くこっち来て座ったら?」

「あぁ…」


昨晩と同じ部屋に、海と嵐史はいた。
まだ、華胥から設定されている出張の時間までは多少時間がある。
香蒔とあんなことがあった手前、今日は誰も抱きたくは無かったが仕事ならば仕方がなかった。
―――例えそれが、香蒔を苦しめている人間だとしても。


一方、嵐史といえば校門で海を待ち伏せした挙句、この部屋まで連れてきたのだが、
一向に行為を始めようとする気配はなかった。


先刻、校門前で顔を合わせたとき。
『まだ時間有るだろ』と言った海の言葉を遮って、
『香蒔と僕たちのホントの関係を教えて上げる』と言った嵐史。
それを信じて―――それを縋って、ここに来た。




海が隣に座ったのを確認して、嵐史は話し始めた。

「最初はね、ゲームだったんだ。ただの」


異母兄弟である、嵐史と昂。
この仲違いは、父親の一言から始まったらしい。


『権力を動かす力がなければ、跡は継げない』


権力を動かす力があるかどうかを調べる為、あるゲームが始まった。
どちらが先に、ある人物を自分に従順にさせることが出来るか。


ターゲットは、当時藤家の傘下にあった有坂孤児院にいた男の子。
香蒔だった。



「俺は、香蒔なんかどうでも良かったんだ。今は…哀れだと思うけどね。
 こんな事に巻き込まれて」

「…だったら何で、関わる事をやめないんだよ…」

「父さんに認めてもらう。今の俺にはそれしかない」

「…そんな勝手な事言ってんじゃねぇよ…!」


息を荒げた海を、嵐史は見つめる。


「そんな風に、語調を荒くするくらい、父さんに俺の事も見て貰いたかった」

「………」

「昂は、明日手術を受ける。3年前に失った視力を戻す為のね」

「治るのか?」

「最新治療だから、あんまり心配は無いみたいだよ」


「元々、左目の視力は悪かったんだけど」と嵐史は続けた。


「…で、それが?」

「術後、リハビリの為に渡米する。まぁ…それも理由の一つだけど、
 父さんの仕事の拠点がアメリカになるらしいんだ」

「………」

「昂は、香蒔を連れて行くつもりだよ」

「なっ…」

「香蒔は自分のせいで、視力を失ったと思ってる。父さんも昂の意思を受け入れ
て、香蒔に渡米を持ちかけるだろうね」

人差し指と親指で丸を作って示した。

「香蒔は大金積まれても動かないって言いたいと思うけど。心情的にはどうだろうね」

「…俺にどうしてほしいんだよ」


嵐史は一瞬、眼を見開いて驚愕の表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。


「流石、回転が速いよね。……協力してほしいんだ」

「信じていいんだな?」

「…君の口から信じる、なんて台詞が出るとは思わなかったよ。俺に対して」

「………」


「俺は香蒔はいらない。父さんを取り戻したいだけだよ」